一つの集大成。監督という立場で向き合ったSDGs
投稿者
有慶太 / Ari Keita

日本を代表するスポーツブランド「ミズノ」にとって、持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)を体現する映像を作る。そのミッションに監督としてアサインされたのが有慶太氏だった。10年前趣味として始めた映像制作は、様々な経験を積み上げて企業のメッセージを伝える映像制作へと繋がった。そこに込めた想いを語って頂いた。

SDGsってどういうこと?

有氏は今回のミッションに先立ち、SDGsについての書籍や資料を読み解くことにした。SDGsは2015年9月の国連サミットで採択されたもので、国連加盟193か国が2016年から2030年の15年間で達成するために掲げた目標である。本を読んでいく中で、17の大きな目標、169のターゲット、232の具体的な数値目標が書かれた指標。その中から耳障りの良い言葉を使って映像を制作することも出来る。しかし、それは自分がやるべき事なのか?なぜ自分が監督としてここにいるのかを考えていくと、おのずとコンセプトが明確になってきた。SDGsと向き合った時に自分には何が出来るのか?「俺は貧困をなくすことが出来るのか?」「私は海の豊かさを守ることが出来るのか?」否、それよりも先ず自分の家族や周りの人に手をさしのべることが出来ているのか?そこに目を向けることが出来ているのか?...そう考え始めた時に今回の映像のコンセプトが決まった。

共感出来ることで広がっていく

今回キャスティングした3名それぞれにストーリーとバックボーンを作りながら、CMとして練り上げていく。この映像を見た人がどのように感じるか。SDGsというメッセージを伝えるための手段として、見た人に共感してもらうことが始まりだと感じた。今回の撮影場所は東京都内と種子島の2箇所を選んだ。行ったことのある人ならば、その映像を見てどこなのか分かるのかも知れないが、有氏はこの映像を見た多くの人が違和感を感じずに共感できる場所選びに徹したと語る。そう言われてもう一度映像を見てみると、この映像には文字が出てこない(正確に言うと、字幕は入っているが)。自然の中で撮影した種子島ならば、それも可能なように思えるが、文字情報が溢れている都内でそれを排除するのはかなり場所選びの幅は狭かったことだろう。有氏は映像に文字情報が入らないことで、この映像を見た人たちが自分たちに近い場所で起こっていることなのだと感じてもらえる。その意図をもって撮影を進めていったと言う。

そして、3名の登場人物のストーリーについても、恋人や家族を大切にしていくこと、友人とのつながりを大切にしていくこと、自分の周りにいる人たちを大切にすること、それを軸にして作り上げている。最初に有氏が描いたイメージを大事にしながら綿密に仕上げられていった。

絵コンテと現場

撮影前の段階でクライアントに見せた絵コンテ。それは撮影に関わるクルーにも共有されていた。ただ、有氏はクライアントにこうも伝えていた「絵コンテはあくまで絵コンテです。現場で起こる様々なものを取り入れて、イメージ以上のものを仕上げるつもりです」と。そして現場でも「基本は絵コンテを意識していこう!そして全ての瞬間でより良いものを狙えるように、感度を高めて臨もう」とスタッフに伝えた。撮影現場は生き物。常に変化していく状況の中で、どれを選択するか。監督としての立ち位置でいたからこそ、最高の瞬間を逃したくなかった。
例えば、ビーチでコーチと生徒がハイタッチをしていたシーン。当日は曇り空の中、現場で準備をしていた。準備を終えてスタンバイに入ったそのとき、雲間から太陽の光があたりに降り注いできた。その瞬間すぐに撮影をスタートできたのは、演者を含めたチームが共通の認識を持って臨んでいたからだと言える。妥協はしたくない。だからこそ下準備として出来ることを洗い出して、それをチームで共有させる事が大事だった。

どうしても撮りたくなった瞬間

山の中で植樹をするシーン。それはこの映像の中で唯一、有氏が撮影したシーンだ。そしてそれは今まで撮影してきた中でも1番のシーンだったと振り返ってくれた。このシーンの主役となったタニヤさんが他のメンバーとハイタッチをするシーンは、この映像の中でもハイライトと言えるだろう。このシーンについて有氏は植樹をした後に何をするのか指示をしていなかった。その上で、演者が自分たちで考えてこのシーンのハイライトを作っていったのだ。これこそが有氏が求めていた最高の瞬間だった。
このような瞬間を撮り逃さないため、常に集中して周りを見続けてきたし、クルーにもそれを求めてきた。撮り終えた瞬間に涙が出てきたというそのシーンは、彼の集大成を象徴するシーンと言えるものだった。作り込むことで撮れるシーンもあるが、そればかりでは作れないのが彼が思い描く作品だった。偶発的に生まれた「2度と撮れないワンシーン」それがこの瞬間に詰まっていたのだ。

やりきったという思い。そしてその先へ

撮り終えて編集を終えたとき、有氏は自分の中にやりきったという思いを抱いた。
多くのクライアントワークに携わってきた。
時には無理難題な要望もあった。
そしてそれに応えるだけの術も自ずと身についていた。
自分の中で「監督」として名乗ることが出来る作品を作り上げる事も出来た。
5年間自分を捧げて行動してきたことで得られたものは大きかった。
そう思った時に新たな思いが芽生えた。ここまでの経験を活かしてこの先も同じように生きることは出来る。でも、それは自分が求めていることなのか?自身に自問自答する日々。
自分が生きてきた中で出会った魅力的な人たち。その人たちがもつ魅力を発信することで新たな自分とも出会えるのではないか。
そして動き出した。彼は相棒のハーレーと共に日本全国を走り出した。
ポッドキャスト「よろしく!」で5年間毎週発信を続ける。これを軸にして、自分を求めてくれる人のために、自分が信頼できる仲間とともに立ち向かう。
映像という世界だけに留まらない。有慶太だから出来ることに率先して動けるために、新たなスタートをきった。

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